■■■ サイレント・クリスマス...4話 ■■■ バタン! 部屋の扉が、突然思い切り開かれた。 驚いて扉のほうを見るユキナとソウ。 娘も、その二人の視線を追った。 そこには…恋人の姿があった。 「遅くなって、すまなかったな」 「ユウシさん!待ってた!あ、プリンも…v」 「ぷーぷー」 ユキナと少しの会話を交わし、青年は娘のほうを向き、見つめた。 部屋に閉じこもり、ろくに食事を取っていなかったためか、痩せこけてしまった娘。 ああでも、その瞳は昔のままで。 愛した瞳のままで。 じっと見つめるだけの青年の視線から逃れるように、娘は、うつむいた。 変わってしまった自分を、愛する人に見られるのを恐れるように。 と、そのとき、プリンが娘のひざに跳びのって来た。 前からこのプリンは娘になついていて、二人はいつもいっしょにいたような仲だった。 「ぷー!」 プリンは、自分の手に巻かれてあったリボンをぎこちなくほどきはじめた。 天使の羽のアクセサリーがついた、赤と緑のリボン。 「ぷ!ぷりゅ!」 「え…?」 プリンはそのリボンを、娘の手のひらにのせ、握らせた。 そして、満足そうに、笑った。 (これ…私に…?) 思いがけないプレゼントに、娘は驚きを隠せなかったが、ゆっくりとプリンの頭をなでてやった。 そして、その手のひらが、誰かのそれと重なった。 恋人の、手のひらと。 顔を見なくてもわかる。 この大きな手のひらは。 あの人の。 そして青年はその手のひらで、言葉をつむいでゆく。 声のない、言葉を。 手のひらで、ひとつひとつ。 ![]() 「ソウ、あれって…」 「ああ、手話、だな。二人が今何を話しているかは、俺たちにはわからない」 「うん、でも、わかんなくったっていい。ふたりが、話せてるなら」 それに、なんとなく、わかるし… 娘と青年は、手のひらで言葉を交わした。 そして、最後には、声を出しながら、手の形をつくった。 「俺たちの歌、聞いてくれ」 青年は、マフラーをほどき、あの赤い傷が姿を現した。 苦しみ、もがき、刻まれた傷痕。 もう、歌なんかいらないと思ってた。 けど、俺たちは、歌うことしか出来ない。 あなたに、この歌が届くだろうか。 この想いが届くだろうか。 聖なる夜よ。 俺たちの歌を、愛する人へ届けてくれ… 「プリン、おいで」 「ぷー」 青年とプリンは、並んで姿勢よく立った。 そして…合図をとったわけでもないのに、二人同時に、歌い始めた。 きよしこのよる 星はひかり 救いの御子は まぶねのなかに 眠りたもう いとやすく その声は、高らかに、清らかに、美しく… ああ…思ったとおりだ。 ユウシさんは、ほんとに歌が上手だった。 なのにどうして。 どうして、こんなにも涙があふれてくるんだろう。 きっと理屈じゃない。 私は今、二人の歌に、ただただ感動してるんだ。 キレイで、柔らかくて、暖かく優しいこの歌に。 ヒロナさん、届いていますか。 聞こえていますか。 あなたの耳ではなくて、心に。 あなたにとっては、“声なき歌”が、聞こえていますか。 きよしこのよる み告げうけし 牧人たちは 御子の御前に ぬかずきぬ かしこみて ![]() ああ…ヒロナさん、泣いてる。 きっと、今の私と同じように。 彼女には音がないけど、今、私たちはおんなじ歌を聞いているんだね。 同じように、涙を流しているんだね。 ねぇユウシさん、届いたよ。 歌も、気持ちも。 届いたよ。届いたよ… 「うわあぁぁぁん!…うう…ひっく、ひっく…」 「うわ!ユキナ!馬鹿!お前が泣くことないだろう!」 「うああん!だって、だって、ヒロナさんが、嬉しそうに泣いてるんだもん…ふええぇ…」 「ああわかったから!な、落ち着け!…ほんとに、馬鹿だな…」 ソウはそう言いながらも、頬をよせ、私の頭を優しくなでてくれた。 暖かな手が、嬉しくて。 私はまた、大粒の涙をこぼしてしまいました。 ![]() 二人が歌い終わると、ユキナもソウも、二人のポケモンたちも、そして娘も、拍手を贈った。 それは長く、長く…誰も、止めようとはしなかった。 その拍手は、娘の母親が部屋に入ってきたことで、やっと止まった。 母親は、娘の久しぶりに見る明るい表情に肩を震わせながら、手を広げて言った。 「さあ、おいしいご飯ができたわよ!みんな、居間に降りてらっしゃい!」 それからは、この家で、去年のこの日よりももっと楽しいクリスマスパーティがにぎやかに行われた。 そして、時計の針がもうすぐ12時を指す頃。 すっかり笑い疲れて眠ってしまった娘を部屋に連れていき、居間に戻ってきた青年が、あたりを見回して言った。 「あれ?おばさん、あの二人は?」 「…帰っちゃったわ。今夜は泊まっていけ、って言ったんだけどね」 「そうか…。あの子たちと、もっといろんな話をしたかったのに」 「あの子たち…ホントのサンタさんだったかもしれないわよ?」 あはは、と二人は笑い合い、取り戻した絆に、幸せをかみしめた。 夜の12時、といっても、この日は数々の家がいまだ灯をともしていた。 そのおかげで、二人の子どもも恐怖を感じることなく夜道を歩くことができた。 「あー、おばさんの料理、おいしかったなぁ!」 「ヒロナさん、元気になったみたいで良かったな」 「うん!きっとヒロナさん、怖かったんだと思う。 耳が聞こえなくなって、いろんなことを、信じられなくなっちゃったんじゃないかな。 でも、もう大丈夫だよね。…素敵な恋人がいるもん」 「…?なんだ、もしかして、うらやましいのか?」 「えぇ!?…どうかな。私にはまだ、わかんないや」 「はは、俺も!」 遠くで、鐘の音が聞こえた。 と同時に、家々から、クラッカーを鳴らす音が響く。 「あ、この音…」 「どうやら、12時をまわったみたいだな。」 「そっかあ。クリスマスがきたんだね!」 「…ユキナ」 「ん?」 「…メリークリスマス。」 視線を外しながら照れくさそうに言ったソウに、ユキナは心底驚いた。 そして、思わず笑いだす。 「ぷぷっ。あっはっは!!」 「な!なんだよ!!」 「だって、ソウがそんなこと言うと思わなかったから…あはは、全然似合ってない!!」 「…ちぇ。言って損した」 「あはは、ごめんごめん。…メリークリスマス!!」 聖なる夜よ、ありがとう。 離れてしまった二人の心が、もう一度ふれあえたのは、この夜のおかげかな。 クリスマスは、不思議。 クリスマスには、夜空を越えて、きっと想いが届く気がする。 そして今夜は、世界中に、“声なき歌”が降り積もるだろう。 幸せそうに… 「サンタさん、来てくれるかなあ」 「ばーか。こんな時間まで起きてる悪ガキのところになんか、来るわけないだろ」 「あはは、それもそうだね。じゃ、今日は、とことん夜更かししちゃおうよ!」 「…ハァ?本気か?」 「もちろん!ね、あの一番多きなクリスマスツリーのところまで、走ろう!」 「な…ちょっと待て!!おいてくな!」 私の大好きなすべての人と、ポケモンたちへ。 メリークリスマス!! きよしこの夜 御子の笑みに 恵みの御代の 明日の光 かがやけり ほがらかに >>>>3話へ あとがき ::: 戻る ::: |