サイレント・クリスマス...4話 

>>>>3話はこちら


バタン!

部屋の扉が、突然思い切り開かれた。
驚いて扉のほうを見るユキナとソウ。
娘も、その二人の視線を追った。
そこには…恋人の姿があった。

「遅くなって、すまなかったな」
「ユウシさん!待ってた!あ、プリンも…v」
「ぷーぷー」

ユキナと少しの会話を交わし、青年は娘のほうを向き、見つめた。
部屋に閉じこもり、ろくに食事を取っていなかったためか、痩せこけてしまった娘。
ああでも、その瞳は昔のままで。
愛した瞳のままで。
じっと見つめるだけの青年の視線から逃れるように、娘は、うつむいた。
変わってしまった自分を、愛する人に見られるのを恐れるように。

と、そのとき、プリンが娘のひざに跳びのって来た。
前からこのプリンは娘になついていて、二人はいつもいっしょにいたような仲だった。

「ぷー!」

プリンは、自分の手に巻かれてあったリボンをぎこちなくほどきはじめた。
天使の羽のアクセサリーがついた、赤と緑のリボン。

「ぷ!ぷりゅ!」
「え…?」

プリンはそのリボンを、娘の手のひらにのせ、握らせた。
そして、満足そうに、笑った。

(これ…私に…?)

思いがけないプレゼントに、娘は驚きを隠せなかったが、ゆっくりとプリンの頭をなでてやった。
そして、その手のひらが、誰かのそれと重なった。
恋人の、手のひらと。
顔を見なくてもわかる。
この大きな手のひらは。
あの人の。

そして青年はその手のひらで、言葉をつむいでゆく。
声のない、言葉を。
手のひらで、ひとつひとつ。

葵様からいただきましたv


「ソウ、あれって…」
「ああ、手話、だな。二人が今何を話しているかは、俺たちにはわからない」
「うん、でも、わかんなくったっていい。ふたりが、話せてるなら」

それに、なんとなく、わかるし…

娘と青年は、手のひらで言葉を交わした。
そして、最後には、声を出しながら、手の形をつくった。

「俺たちの歌、聞いてくれ」

青年は、マフラーをほどき、あの赤い傷が姿を現した。
苦しみ、もがき、刻まれた傷痕。

もう、歌なんかいらないと思ってた。
けど、俺たちは、歌うことしか出来ない。
あなたに、この歌が届くだろうか。
この想いが届くだろうか。
聖なる夜よ。
俺たちの歌を、愛する人へ届けてくれ…

「プリン、おいで」
「ぷー」

青年とプリンは、並んで姿勢よく立った。
そして…合図をとったわけでもないのに、二人同時に、歌い始めた。


   きよしこのよる 星はひかり 
   救いの御子は まぶねのなかに 
   眠りたもう いとやすく


その声は、高らかに、清らかに、美しく…

ああ…思ったとおりだ。
ユウシさんは、ほんとに歌が上手だった。
なのにどうして。
どうして、こんなにも涙があふれてくるんだろう。
きっと理屈じゃない。
私は今、二人の歌に、ただただ感動してるんだ。
キレイで、柔らかくて、暖かく優しいこの歌に。
ヒロナさん、届いていますか。
聞こえていますか。
あなたの耳ではなくて、心に。
あなたにとっては、“声なき歌”が、聞こえていますか。


   きよしこのよる み告げうけし 
   牧人たちは 御子の御前に 
   ぬかずきぬ かしこみて


ゆず様からいただきましたv


ああ…ヒロナさん、泣いてる。
きっと、今の私と同じように。
彼女には音がないけど、今、私たちはおんなじ歌を聞いているんだね。
同じように、涙を流しているんだね。
ねぇユウシさん、届いたよ。
歌も、気持ちも。
届いたよ。届いたよ…

「うわあぁぁぁん!…うう…ひっく、ひっく…」
「うわ!ユキナ!馬鹿!お前が泣くことないだろう!」
「うああん!だって、だって、ヒロナさんが、嬉しそうに泣いてるんだもん…ふええぇ…」
「ああわかったから!な、落ち着け!…ほんとに、馬鹿だな…」

ソウはそう言いながらも、頬をよせ、私の頭を優しくなでてくれた。
暖かな手が、嬉しくて。
私はまた、大粒の涙をこぼしてしまいました。




二人が歌い終わると、ユキナもソウも、二人のポケモンたちも、そして娘も、拍手を贈った。
それは長く、長く…誰も、止めようとはしなかった。
その拍手は、娘の母親が部屋に入ってきたことで、やっと止まった。
母親は、娘の久しぶりに見る明るい表情に肩を震わせながら、手を広げて言った。

「さあ、おいしいご飯ができたわよ!みんな、居間に降りてらっしゃい!」


それからは、この家で、去年のこの日よりももっと楽しいクリスマスパーティがにぎやかに行われた。


そして、時計の針がもうすぐ12時を指す頃。
すっかり笑い疲れて眠ってしまった娘を部屋に連れていき、居間に戻ってきた青年が、あたりを見回して言った。

「あれ?おばさん、あの二人は?」
「…帰っちゃったわ。今夜は泊まっていけ、って言ったんだけどね」
「そうか…。あの子たちと、もっといろんな話をしたかったのに」
「あの子たち…ホントのサンタさんだったかもしれないわよ?」

あはは、と二人は笑い合い、取り戻した絆に、幸せをかみしめた。


夜の12時、といっても、この日は数々の家がいまだ灯をともしていた。
そのおかげで、二人の子どもも恐怖を感じることなく夜道を歩くことができた。

「あー、おばさんの料理、おいしかったなぁ!」
「ヒロナさん、元気になったみたいで良かったな」
「うん!きっとヒロナさん、怖かったんだと思う。
 耳が聞こえなくなって、いろんなことを、信じられなくなっちゃったんじゃないかな。
 でも、もう大丈夫だよね。…素敵な恋人がいるもん」
「…?なんだ、もしかして、うらやましいのか?」
「えぇ!?…どうかな。私にはまだ、わかんないや」
「はは、俺も!」

遠くで、鐘の音が聞こえた。
と同時に、家々から、クラッカーを鳴らす音が響く。

「あ、この音…」
「どうやら、12時をまわったみたいだな。」
「そっかあ。クリスマスがきたんだね!」
「…ユキナ」
「ん?」
「…メリークリスマス。」

視線を外しながら照れくさそうに言ったソウに、ユキナは心底驚いた。
そして、思わず笑いだす。

「ぷぷっ。あっはっは!!」
「な!なんだよ!!」
「だって、ソウがそんなこと言うと思わなかったから…あはは、全然似合ってない!!」
「…ちぇ。言って損した」
「あはは、ごめんごめん。…メリークリスマス!!」

聖なる夜よ、ありがとう。
離れてしまった二人の心が、もう一度ふれあえたのは、この夜のおかげかな。
クリスマスは、不思議。
クリスマスには、夜空を越えて、きっと想いが届く気がする。
そして今夜は、世界中に、“声なき歌”が降り積もるだろう。
幸せそうに…

「サンタさん、来てくれるかなあ」
「ばーか。こんな時間まで起きてる悪ガキのところになんか、来るわけないだろ」
「あはは、それもそうだね。じゃ、今日は、とことん夜更かししちゃおうよ!」
「…ハァ?本気か?」
「もちろん!ね、あの一番多きなクリスマスツリーのところまで、走ろう!」
「な…ちょっと待て!!おいてくな!」


私の大好きなすべての人と、ポケモンたちへ。

メリークリスマス!!




   きよしこの夜 御子の笑みに 
   恵みの御代の 明日の光 
   かがやけり ほがらかに 





>>>>3話へ
あとがき



::: 戻る :::