■■■ サイレント・クリスマス...3話 ■■■ なんなんだあの子は。 勝手に話を進めやがって… 青年は、まだ、少女と話していた場所にとどまっていた。 あの子は、急に元気になったと思いきや、突然おかしなことを言い出した。 ―私が、その人のために素敵なクリスマスパーティをしてあげる! だからあなたも必ず来てね。 あなたとプリンで、“きよしこの夜”を、歌ってあげて… あの子は、話を全然聞いていなかったのか。 アイツにはもう、歌は届かないと言っているのに。 それでも、歌えと。 歌えと、言うのか。 「ぷー、ぷー!」 「プリン…お前は…」 ひらひらと、雪が、降り始めていた。 あたりはいつしか暗くなり、雪が木々を白く美しく染めていた。 人々は足早に帰路につき、家々にはぽつぽつとあかりが灯りはじめる。 これから、今日という日の夜を、心ゆくまで楽しむために。 そんな落ち着かない街の様子を、窓からぼんやり眺める一人の娘。 世界のすべての音から切り離された娘。 そして、自ら、世界とのすべての関係を断った娘。 ひとつ前のクリスマスは、あんなに幸せだったのに。 今はもう…笑えない。 そのまま窓の外を見ていたが、突然、視界に、一羽の鳥が飛び込んで来た。 赤い帽子をかぶった、小さなエアームドが。 窓の外で、せわしなく飛び回っている。 (開けてほしいの…?) 娘は、おそるおそる窓に手をかけた。 いつもこの窓は母親が勝手に開け閉めしていた。 自分で開けるなんて、いつぶりだろう… ガラガラガラ… 「…!!」 窓を開けたと同時に、エアームドが勢いよく中に入って来た。 部屋に、夜風が入り込む。 頬に、冷たい雪がふれた。 懐かしい、冬の匂い… エアームドは娘の肩にとまった。 このあたりに野生のエアームドはいない。 きっとトレーナーとはぐれてしまったのだろう。 (あなたのご主人様のところに、戻りなさい…) 娘はエアームドを帰そうと、もう一度窓のほうを見た。 すると、そこにはまたもや、見慣れない風景が。 しかし今度は、鳥ではない。 小さな、女の子であった。 「こんばんは。サンタさんですv…なんちゃって」 ![]() 少女は何か言っているようだったが、耳の聞こえない娘にはわからなかった。 そして、それどころではなかった。 だって、ここは二階。 この子、一体どうやって… 娘は窓の下を見下ろした。 「なっ!」 娘は驚き、思わず声をあげてしまう。 窓の下は、驚くべき光景だった。 ヌマクローがジュプトルを、ジュプトルが少年を、少年が今目の前にいる女の子を、なんと肩車していた。 一番下のヌマクローなんて、ふるえて、ふるえて… ![]() 次の瞬間、この長い肩車はバランスを崩し、女の子は今にもこの高さから落ちようとしていた。 「ぎゃあ!」 「…!危ない…!」 娘はとっさに小さな少女の手をとり、窓から部屋に引き入れた。 そして窓の下をもう一度見下ろすと、案の定、二匹と少年は地面に倒れていた。 しかし彼らはムクリと起き上がり、なんと玄関から家に入って来た。 (な、なんなのよ…) 少し恐怖を覚えながら、娘は少女のほうを向いた。 赤い帽子に、赤い服。 この季節には街でよく見かけるような、いわゆる『サンタルック』。 エアームドが、ぱたぱたと少女の周りを飛び回った。 この少女がトレーナーなのだと、一目でわかった。 「助けてくれて、ありがとう」 少女が何かを言った。 娘はわからない。 少女は今度は、ゆっくりと、おおげさに口を動かして、言った。 「助けてくれて、ありがとう」 あ、り、が、と、う… 娘は、口の動きから、少女の言葉を受け取った。 少女はニッコリと笑った。 そして、何かに気付いたように、部屋のドアに近付いた。 するとドアから、先程の少年と二匹のポケモンと、タツベイが押し合いへし合いして入って来た。 それはそれは、おかしな光景だった。 女の子とおそろいの帽子をかぶり、ぱたぱた飛び回る小さなエアームド。 ヌマクローは雪だるまみたいな格好をしてる。 ジュプトルはその体にきらめく星の飾りをつけ、まるでクリスマスツリーのよう。 タツベイはなにやら自分と同じくらいの大きさのスケッチブックのようなものを持っていた。 小さなサンタさんと、にぎやかな仲間たち。 その姿は奇妙でおかしくて… 娘は、無意識のうちに、笑った。 久しぶりに、笑った。 「ソウ、見て。ヒロナさん、笑ってるよ!」 「ま、こいつらのアホな格好見れば、そりゃ笑えるよな」 「…ほんとはソウにも面白い格好してもらう予定だったのに…」 「馬鹿。誰がするかっての。…さあ、クリスマスパーティのはじまりだ!」 ソウは、タツベイに持たせていたスケッチブックを受け取って、その表紙をめくった。 そこには、決して上手いとは言えない字で、こう書いてあった。 『あなたに楽しいクリスマスをお届けします』 ソウのスケッチブックは、音を失った娘に言葉を伝えるための、橋だった。 そして、また一枚、また一枚とめくっていく。 『俺たちはユウシさんの友達』 『ポケモンたちによる楽しいショーを心ゆくまでお楽しみください』 それらの言葉を見た娘は、少し困惑の表情を浮かべていたが、やがてゆっくりと、うなづいた。 それからは、エアームドが翼で野菜を切ってみたり、ヌマクローが変な顔をしてみたり、 ユキナがジュプトルに電飾を付けて照らしてみたり、タツベイが跳ねて回って踊ってみたり。 大道芸のような、パントマイムのような、声も音も歌も無くても楽しめるパフォーマンスが続いた。 娘も笑顔でそれらを楽しむ。 それは、まぎれもなく、「楽しいクリスマスパーティ」だった。 その中で、特に芸もせず椅子に腰掛けていたソウが、ビリビリビリとスケッチブックの一枚をおもむろに破りだした。 そしてそれを、娘に渡す。 少年は芸を見ていたのでなく、その間に、娘の似顔絵を描いていたのだった。 『下手だけど、さ』 娘は、自分の似顔絵を手にして、ふるふる震えながら、思いっきり首を横に振った。 そんな娘の様子を、ユキナもソウも嬉しそうに見つめた。 ユキナがクスッと笑い、言う。 「いいトコどりめ。」 ソウはやや苦笑しながら答えた。 「いや、今日の主役は、まだ到着してないぞ?」 そうなんだよね。 ユウシさん、遅いよ。 あなたを無理矢理ひっぱってこなかったのは…あなたが来てくれると信じたから。 ヒロナさんは、あなたを待ってる。 ねぇ、私たちの気持ちはヒロナさんに届いたよ? 笑ってくれたよ? 今度はあなたの番。 ねぇ、だから早く来てあげて… 雪が…降る…しんしんと。 いつかこんな風景を、彼女と、プリンと、眺めていたっけ。 ああ、家々から、歌が聞こえる。 アイツの好きな、きよしこの夜が鳴り響く。 けっして上手くはないけれど、友達と、家族と、恋人と、声を合わせて歌ってる。 それはとても幸せそうで。喜びが、あふれてて。 やっぱり、声のない歌なんて、届くはずもない。 想いがいつかは、夜空を越えて、あなたのもとへと届けばいいのに。 「ぷー!ぷー!」 「あ…プリン、寒いか?そろそろ、ウチに帰ろうか。」 「ぷぷー!ぷー!ぷぷぷー!!!!」 「なに?なんだ?」 プリンが突然、俺の腕の中から飛び出して、俺のほうを向いた。 驚いて見ていると、プリンは頭を下げ一礼し、そして…歌を、歌いだした。 「ぷ〜ぷりゅぷ〜…ぷ〜ぷぷぷ〜…」 ああ…このメロディ。アイツの好きな、歌。 店でこの歌を歌ったあの日、俺はアイツと出会った。 俺の歌に涙を流して…笑ったあの顔。 俺はその顔に、いつしか、恋をしていたんだ。 「ぷ〜ぷ〜りゅ〜…ぷ〜ぷ〜りゅ〜…」 俺たちは、いつも、歌でつながっていた。 それは今でも変わらないのか。変わっていないだろうか。 お前は、歌えと、俺に言ってるのか。 「ぷりゅ!!」 「プリン…」 そうだ。行こう。 彼女のところへ。 今夜は、クリスマスイブだから。 想いが今夜は、夜空を越えて、あなたのもとへと届く気がする。 >>>>2話へ >>>>4話へ ::: 戻る ::: |