〜第二話 月の石〜 2 

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エンジとムラサキは、草むらを掻き分けて走るパラスを追いかける。
パラスは、そこに舗装された大きな道路があるにも関わらず、わざわざ草むらの中を走っていた。
はじめエンジはその道路に出ようとしたが、パラスが慌てて止めに入ってきた。
こっちのほうが走りやすい、と訴えたエンジだったが、

「つまりパラスは、“目立ちたくない”、…むしろ“隠れていたい”ってことでしょうね」

というムラサキの一言で、大人しく草むらに戻ったのだった。
隠れていたい、というのがどういうことなのかはわからないままではあったが。

そしてしばらく走り続け、息もあがってきた頃。
パラスが立ち止まり、そこにそびえ立つものを見上げた。

「きゅう」
「ここは…おつきみ山じゃんか…」
「はぁはぁ、もう体力が子供に追いつきませんね…」
「だらしないぞムラサキさん。もしかしてそんなに若くないの?」
「…フフ、君みたいなガキが私にケンカを売るなんて、100万年早いんですよ」
「うわわ、笑いながら怒ってるよ…コワ…」

ムラサキの静かな殺気に少々たじろぐエンジ。
そんなやりとりをしてる間に、パラスがまた移動しはじめた。
慌ててそれについていくと、パラスは山の入り口近くの草むらで止まった。

「きゅ、きゅう…」

パラスの体と声が震えていた。
少し事情があったにしろ、今やエンジのポケモンになったパラス。
エンジは震えて顔を隠そうとする自分のポケモンを抱き上げた。

「大丈夫。今はオレがついているから。もうあんな大怪我しないよ」
「きゅう…」
「…つまり、その子はこの中で、何か恐ろしい目に遭ったということですか」
「このおつきみ山で、何があったんだろう」
「エン、行ってみますか」
「…もちろん!」

パラスのあの傷ついた体…
あんな悲しい姿、もう見たくない。
もう誰もあんなことにならないように、オレが行って確かめなきゃ。
何が起ころうと怖くない!

「きゅうきゅう」
「オレのそば、離れちゃダメだぞ」
「あら、随分と男らしいセリフですね」
「オレは男の中の男だからな!」
「…へぇー…」
「な、なんだよその今にも吹き出しそうなその顔は〜!!!」
「プ…ククク。ほらほら、そんな馬鹿げたこと言ってないで早く行きましょ」

そう言ってムラサキは草むらから出て山の入り口に向かって行く。
エンジはムラサキの“馬鹿げたこと”発言に腹を立てながらも、急いで自分もついていく。
その腕にパラスを抱えて。
エンジはムラサキを追いかけて山へと近づく。
そして、近づいていく内に、エンジはとある変化に気づいた。

(…なんだろ、人の声が、する。それも、一人じゃない。…大勢の人の声だ…)

なぜか胸騒ぎがした。
エンジは急いでムラサキに追いついた。
先に入り口についていたムラサキは、そこから中の様子を伺っていたらしい。
そのムラサキは、少し神妙な面持ちだった。
何か考えているのか、エンジが追いついたことに気づいた様子がなかったので、エンジはムラサキに声をかけた。

「どったの、ムラサキさん、難しそうな顔して」
「…エンジ!」
「さっきから何か人の声が聴こえるんだけど…この中からだよね?」
「ああ、…ここは観光地でもテーマパークでもないってのに」
「…え?」
「エンジ、中に入ってみましょうか」
「う、うん、…わわわ!!」

ムラサキがグィッとエンジの腕を強引に引っ張り、中へ入っていく。
エンジはパラスが落ちないように必死で抑えていた。
そして二人と一匹は、おつきみ山の異常な光景を目にするのであった。
それはあまりにも異常で。
“…ここは観光地でもテーマパークでもないってのに”
ムラサキがそう「言った」のではなく、この光景に「言わされた」ようなものだった。

「な、なんだよコレ…」


いた!ピッピがあの岩の後ろに逃げたぞ!
なにー!俺が先に見つけたんだ!


そこには、それはもう大勢のポケモントレーナーが。
目に見える範囲だけで、30、…いや、50はいるかもしれない。
見渡す限りに人、人、人。その中にはマスコミの姿もあった。


向こうでパラスの群れがみつかったってよ!
間違っても炎タイプの攻撃はするなよ。あのキノコが燃えちゃ意味ないんだからよ!


彼らは、おつきみ山に住んでいるポケモン達に手当たりしだい攻撃しては、弱らせ、捕まえていた。
しかしその光景は、とてもポケモントレーナーのポケモンをGETする光景には見えなかった。
捕まえるためには手段を選ばないやり方だってそうだろうし、
何より、
その、目が。その瞳が。
欲に目がくらんだ、暗い闇を宿していた。


「いわゆる…乱獲」

ムラサキの声は普段よりずっと重みが増していた。

「希少価値のあるピッピに、きのこマニアに人気のあるパラス…なるほど、おつきみ山は格好の金稼ぎの場、ですか…」
「そんな!ってことは、あいつらはお金のためにパラスをあんな目に合わせたのか!?」
「まぁ、そういうことでしょうね」

ムラサキはエンジの腕の中にいるパラスの頭をそっと撫でた。
そんな優しい行為の後ろでも、欲のままに動く人々の歓声が響き続ける。
本来は暗く静かな場所のはずなのに。
今は人間たちがこぞってポケモンにフラッシュを使わせているため、外と同じくらいの明るさであった。

「…なんてヤツらだ!!許せない!!!」

そう大声をあげたエンジは、人の群れに向かって勢いよく走り出した。
そのわかりやすいエンジの行動に、ムラサキはため息をつきながら、

「単細胞…」

とつぶやいていた。

「こんなこと絶対許せるもんか!ポケモンは…ポケモンは、オレたちの大事な友達だろう!?」
「きゅうー!きゅうー!」

エンジはパラスを腕に抱えたまま、ポケモンたちを捕まえようとしてる人々に向かっていく。
ふとエンジの目に、人間に追い詰められた傷だらけの小さなピッピの姿が見えた。
ピッピは人間達に囲まれ逃げ場を失い、ぷるぷる震えている。
そんなピッピにじりじりと近づく人間、その手にはハイパーボール。
エンジの頭には、そのピッピを助けたい一心の他には、もう何もなかった。

「ちょっと待てぇ!!!」

エンジが大声で叫ぶ。
人間たちが一斉に声のした方向へ振り向いたスキに、エンジはピッピを囲んでいた輪を潜り抜け、ピッピと人間の間に割って入った。
そしてピッピを護るようにその手を大きく広げる。
エンジの腕の中から降りたパラスも、同じようにピッピの前で人間たちをにらんでいた。

「もうお前らの好きにさせるもんか!」
「な、なんだこのガキ。邪魔すんな!」
「ガキじゃない!オレは、グレン島の鬼鳥エンジだ!」

エンジは強い口調で言ってやった。
実は昔から、この瞬間をずっと待ち望んでいたのだ。
鬼鳥家の者として、名乗りをあげるこのときを。
エンジはちょっとばかり“今のオレ、かっこいい…”と自分に酔いしれていた。

「ピ、ピィ…」
「心配すんなピッピ。オレがお前を守ってやるからな。
 さぁ出て来い、オニスズメ!ゼニガメ!」

エンジが大きなポケットからモンスターボールを2つ取り出すと、彼の相棒達が元気良く飛び出した。
ゼニガメはずずいっとエンジよりも前に出る。
随分と鼻息も荒いようだ。
反対にオニスズメはエンジの頭のちょっと後ろ側までぱたぱた飛んだ。
目の前の人間たちの恐ろしい剣幕に少々たじろいでいるらしい。
パラスは初めて会う自分の仲間達を興味深く見つめていた。

「お前ら、こんなこともうやめろ!ここはたくさんのポケモンたちの住みかなんだ。
 そこを荒らして好き勝手なんて最悪だぞ!
 やめないって言うなら…オレたちが相手だ!」
「ぎゃおぎゃお〜…」
「ゼニー!」
「きゅきゅう!」

エンジたちの勢いに、人間達は一瞬たじろいだが、とある一人がふいに笑い出した。
その笑い声につられたのか、人々は次々に声を上げて笑い出す。

「くっくっく…おかしー!」
「ああ、笑えるなこりゃ。傑作だわ」
「ハハハ、おい誰か言ってやれよ」

…?
エンジには、何故彼らが笑っているのかわからない。
なんでこの状況でそんな面白がって笑えるのか。
エンジには到底理解できなかった。
が、その行為がエンジにとって腹立たしいということは十分に感じていた。

「な、なんだよ!ムカつくな!何笑ってんだぁ!」

その問いに、答えが返ってくる。

「だってお前、そいつらで俺達を止めようとしてるんだろ?
 そのちっせぇポケモンたちで」
「ゼニガメに、オニスズメに、パラスときたもんだ」
「ぎゃはは!雑魚以上の何モンでもないよな!」
「おい早く誰かサクッと倒してやれって。あはは」

「な…!」

エンジの顔が急激に赤く染まった。
その言葉に対する恥ずかしさと、それ以上の怒りを感じたからだ。
よってたかって自分のことを馬鹿にされ、黙っているわけにはいかなかった。

「ふざけんな!そういうことはオレとバトルしてから…!」
「わかったわかった。バトルしてやるよ。…行け」

人間達の中で一番前にいた背の高い一人が、一歩前に出てモンスターボールを取り出した。
そこから、ボンッと音を立て、一匹のポケモンが姿を現す。
エンジはぽかんと口を開けたまま閉じることができなかった。
そのポケモンが自分の背丈よりももっと大きかったからだ。
そしてそのポケモンが上からギロリとエンジを睨んできた。

「…け、ケンタロス…!?で、でっかい…」
「ブフォン、ブヒン!フーフー」
「さぁチビども、かかってこいよ」

人間達がニヤニヤ笑っていた。
さっきは真っ赤だったエンジは、いまや完全に青ざめていた。

また…オレは…自分を見失ってた…!
別にこいつらと戦う必要なんてなかったんだ、隙をついてピッピを連れて逃げればよかったんだ。
正義のヒーローみたいな自分の姿に酔いしれて。
勝手に一人で盛り上がって。

でも、もう、退くわけにはいかない。
ピッピと約束したもんな…

「みんな、わりぃ。オレに付き合ってくれ…な」
「ぎゃう」 「ゼニ」 「きゅう!」

三匹から同時に返事が返ってきて、エンジはニカっと笑う。
やってやれないことはない!






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