ニュースをお伝えします
近頃、珍しいポケモン・ピッピの捕獲と、パラスが持つキノコの収集を目的に、
おつきみ山に大勢の人が集まっております
これを受けて各メディアもいろいろな特集を組んでおり、この人気はまだまだ続きそうですね
■■■ 〜第二話 月の石〜 ■■■
エンジとムラサキの旅立ちの朝が来た。
気持ちの良い朝日を浴びながら、エンジはよいしょとリュックサックをしょった。
二人は街の入り口付近にいた。
荷物は持ったし、すでに祖父との別れは済んだ。
他に出発のために必要なのは…行き先、だけ。
エンジにとっては初めての旅立ち、きっとどこへ行っても新しい出会いと驚きが待っているだろう。
つまり、行き先はどこでもいい、ということ。
どこだっていいから早く行ってみたい、その思いでいっぱいのエンジは、ムラサキを見上げ問う。
「ムーラサーキさーん、なぁ、オレたち、これからどこに行くんだ?」
『ムラサキさん』という呼び方は、エンジの中ですっかり定着したらしい。
それが本名ではないにしろ、本人が名前を言わないのだから仕方ない。
それにエンジは、『ムラサキ』という名前は、この人に合っているような気がしていた。
ムラサキはいつも通りににっこり笑って言った。
「そうですねぇ、どこに行くって…まぁ、北か南か東か西か…」
「…もっと具体的にお願いします」
「エン、あなた馬鹿ですか?フフフ、冗談にきまってるじゃない」
どうやらムラサキはかなりの毒舌家らしい。
エンジもすでにそのことは承知しているらしく、隣で苦笑していた。
「ここハナダシティから行けるのは、どこだったかな?」
「えーと…、北に行けばマサキさんち。オレんちから南にある地下通路を通れば、クチバシティに行けるよ」
「それから、西にはおつきみ山。東に少し行けばイワヤマトンネルがありますね」
「で、で、まずはどこに行くんだ!?」
エンジは瞳を輝かせた。
街の名前、山の名前、聞くだけでドキドキする。
そこにはきっと、新しい出会いが待っているから。
そんなエンジにムラサキはため息をつく。
「エン、もう少し落ち着きなさい。今の君はまるで犬ですよ」
「い、犬…!?」
「ふぅ。そうですね、私はクチバシティからこっちに来たのだから、クチバは却下」
「ええ〜ッ!?ちぇ、でっかい船、見たかったんだけどなぁ」
「ハイハイまた今度ねー。で、マサキさんは、ただのポケモンマニア。アカネさんの行方なんて知っている訳ないでしょう」
「うーん確かに。マサキさん、ポケモンと機械にはめっぽう強いけど、他はからっきしだもんな…」
エンジは自分の友人の顔を思い浮かべた。
一年前、エンジがグレンタウンからハナダに引っ越してきたときから、マサキはエンジを可愛がっていた。
いろいろなポケモンの画像を見せてやったり、少し遠いところへ連れていったり。
エンジはマサキのことを兄のように慕っていた。
しかし、マサキはここ最近新しいネットワークを作るとかなんとか言って、自宅にこもりきりである。
ムラサキの言うとおり、アカネのことなんて聞いても無意味だろう。
「マサキさんもダメ、クチバもダメ、となると、おつきみ山かイワヤマトンネルだね」
「はぁ〜、どっちにしろ面倒なことになりそうですね…」
「どっちにしろ、すっげえ楽しそうだなあ!!」
とエンジが言ったとき、そばの草むらからガサガサッと音がした。
草の緑から赤い色が見え隠れする。
「野生のポケモンだ!」
エンジは腰に巻いたベルトからモンスターボールをひとつ手に取る。
一人で何度も練習したポーズで、思い切りボールを投げた。
「いけえっ、ゼニガメ!!」
「ゼニガメガー!」
「ようし、お前とは初めてのバトルだ!いくぞ、たいあたり!」
ゼニガメは新しいパートナーの指示通り、まだ正体のわからない“赤”に突っ込む。
“赤”も相手に気づいたらしく、せわしなく動き始めた。
草むらの緑が揺れる。徐々に見えてくる体。
そして草むらから、姿をはっきりと現した。
「…なっ…」
「エン、ゼニガメ、やめなさい!!」
「あ、ああ!ゼニガメ、止まれぇ!!!」
「ゼ!?ぜ、ぜにッ!」
自分に急ブレーキをかけるゼニガメ。
その体は…赤い体のポケモンに当たる寸前で、なんとか止まった。
ゼニガメはその反動でしりもちをつく。
しかし目の前のポケモンの姿に驚き、痛みは何も感じられなかった。
「ぱ、パラス…お前、なんでこんなに…」
「きゅ、きゅうう〜…」
“赤”の正体は、きのこポケモン、パラスであった。
そう、ボロボロに傷つき、体の赤が血のために濃くなった、パラス。
その体は、もはや立っているのが奇跡なほどだった。
エンジはその姿に動揺を隠せない。
「どど、どうしたんだお前!?だ、大丈夫か…どうしようムラサキさん!」
「…これはひどい傷ですね…一刻も早くポケモンセンターに連れていかないと」
「じゃあ、コイツを運んでいけばいいんだな!」
「いや…この傷を外の風にさらすのは危険かもしれない。エン、あなたがこの子をゲットしなさい」
「え、…げ、ゲット?」
「いいから早く!この子を助けたいのでしょう!?」
「う、うん!!」
エンジは急いで空のモンスターボールを取り出す。
祖父から『餞別だ』と言われもらったモンスターボール。
まさかこんなに早く使うことになるとは…と思いながら、パラスに向かってボールを投げた。
極限にまで弱っていたパラス、なんなく捕まえることに成功した。
「さあ、全速力でポケモンセンターに向かいなさい!」
「ああ!…がんばれよ、パラス…」
・
・
・
「きゅう〜、きゅう!!」
「さあエンジ君、もうこの子は大丈夫よ」
「あはは…やった!やった!ありがとうジョーイさん!」
数時間後、ポケモンセンターに明るい声がこだました。
パラスは傷も癒え、元気に飛び跳ねている。
ほっと胸を撫で下ろすエンジとムラサキ。
そんな二人をジョーイはキッと睨んだ。
「コラ二人とも!いくらゲットしたいからって、あそこまで弱らせることなんてないでしょう!
…もしもこの子があと一回攻撃を受けてたら…。今、この子はこの世にいなかったはずよ」
「ま、マジ…?」
先程あと一回攻撃をしようとしたエンジは、ぶるっと身を震わせた。
もしあの時、ムラサキさんが止めてくれなかったら…
自分の無鉄砲な行動に、嫌気がさした。
うつむくエンジの頭を、ムラサキはくしゃくしゃと撫でてやる。
エンジがムラサキを見上げると、そこにはいつもの笑顔があった。
「君みたいな少年は、無鉄砲なのがちょうどいいくらいですよ」
「ムラサキさん…」
「それより。ジョーイさん、このパラスは私たちが傷つけたわけではありません」
「それならどうして…」
「そうだよ。なぁパラス、お前、一体なにがどうしたんだ!?」
「きゅう、きゅう…」
エンジ・ムラサキ・ジョーイの三人は、いっせいにパラスを見る。
パラスは困ったような顔をすると、少し間をあけ、ぱっと顔をあげた。
そしてまたピョンピョンと飛び跳ね、ポケモンセンターの自動ドアから外に出る。
パラスは三人のほうに向き直り、またピョンピョン跳んだ。
「もしかして…」
「ついて来い、って言っているようですね」
「ムラサキさん、行き先は決まったみたいだね」
「はぁ…アカネさんの手がかりになりそうなものは、一切無さそうだけど。ま、いいでしょ」
「へへ、オレたちの、旅立ちだ!…待てよ、パラス!」
「はいはい。好きにしなさい」
「二人とも、ガンバってね…」
パラスを追いかけエンジとムラサキは進む。…西へ。
そこには、高く高く、おつきみ山がそびえ立っていた。
>>>>2へ
::: 戻る :::
|