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近頃、珍しいポケモン・ピッピの捕獲と、パラスが持つキノコの収集を目的に、
おつきみ山に大勢の人が集まっております
これを受けて各メディアもいろいろな特集を組んでおり、この人気はまだまだ続きそうですね


 〜第二話 月の石〜 


エンジとムラサキの旅立ちの朝が来た。
気持ちの良い朝日を浴びながら、エンジはよいしょとリュックサックをしょった。
二人は街の入り口付近にいた。
荷物は持ったし、すでに祖父との別れは済んだ。
他に出発のために必要なのは…行き先、だけ。
エンジにとっては初めての旅立ち、きっとどこへ行っても新しい出会いと驚きが待っているだろう。
つまり、行き先はどこでもいい、ということ。
どこだっていいから早く行ってみたい、その思いでいっぱいのエンジは、ムラサキを見上げ問う。

「ムーラサーキさーん、なぁ、オレたち、これからどこに行くんだ?」

『ムラサキさん』という呼び方は、エンジの中ですっかり定着したらしい。
それが本名ではないにしろ、本人が名前を言わないのだから仕方ない。
それにエンジは、『ムラサキ』という名前は、この人に合っているような気がしていた。
ムラサキはいつも通りににっこり笑って言った。

「そうですねぇ、どこに行くって…まぁ、北か南か東か西か…」
「…もっと具体的にお願いします」
「エン、あなた馬鹿ですか?フフフ、冗談にきまってるじゃない」

どうやらムラサキはかなりの毒舌家らしい。
エンジもすでにそのことは承知しているらしく、隣で苦笑していた。

「ここハナダシティから行けるのは、どこだったかな?」
「えーと…、北に行けばマサキさんち。オレんちから南にある地下通路を通れば、クチバシティに行けるよ」
「それから、西にはおつきみ山。東に少し行けばイワヤマトンネルがありますね」
「で、で、まずはどこに行くんだ!?」

エンジは瞳を輝かせた。
街の名前、山の名前、聞くだけでドキドキする。
そこにはきっと、新しい出会いが待っているから。
そんなエンジにムラサキはため息をつく。

「エン、もう少し落ち着きなさい。今の君はまるで犬ですよ」
「い、犬…!?」
「ふぅ。そうですね、私はクチバシティからこっちに来たのだから、クチバは却下」
「ええ〜ッ!?ちぇ、でっかい船、見たかったんだけどなぁ」
「ハイハイまた今度ねー。で、マサキさんは、ただのポケモンマニア。アカネさんの行方なんて知っている訳ないでしょう」
「うーん確かに。マサキさん、ポケモンと機械にはめっぽう強いけど、他はからっきしだもんな…」

エンジは自分の友人の顔を思い浮かべた。
一年前、エンジがグレンタウンからハナダに引っ越してきたときから、マサキはエンジを可愛がっていた。
いろいろなポケモンの画像を見せてやったり、少し遠いところへ連れていったり。
エンジはマサキのことを兄のように慕っていた。
しかし、マサキはここ最近新しいネットワークを作るとかなんとか言って、自宅にこもりきりである。
ムラサキの言うとおり、アカネのことなんて聞いても無意味だろう。

「マサキさんもダメ、クチバもダメ、となると、おつきみ山かイワヤマトンネルだね」
「はぁ〜、どっちにしろ面倒なことになりそうですね…」
「どっちにしろ、すっげえ楽しそうだなあ!!」

とエンジが言ったとき、そばの草むらからガサガサッと音がした。
草の緑から赤い色が見え隠れする。

「野生のポケモンだ!」

エンジは腰に巻いたベルトからモンスターボールをひとつ手に取る。
一人で何度も練習したポーズで、思い切りボールを投げた。

「いけえっ、ゼニガメ!!」
「ゼニガメガー!」
「ようし、お前とは初めてのバトルだ!いくぞ、たいあたり!」

ゼニガメは新しいパートナーの指示通り、まだ正体のわからない“赤”に突っ込む。
“赤”も相手に気づいたらしく、せわしなく動き始めた。
草むらの緑が揺れる。徐々に見えてくる体。
そして草むらから、姿をはっきりと現した。

「…なっ…」
「エン、ゼニガメ、やめなさい!!」
「あ、ああ!ゼニガメ、止まれぇ!!!」
「ゼ!?ぜ、ぜにッ!」

自分に急ブレーキをかけるゼニガメ。
その体は…赤い体のポケモンに当たる寸前で、なんとか止まった。
ゼニガメはその反動でしりもちをつく。
しかし目の前のポケモンの姿に驚き、痛みは何も感じられなかった。

「ぱ、パラス…お前、なんでこんなに…」
「きゅ、きゅうう〜…」

“赤”の正体は、きのこポケモン、パラスであった。
そう、ボロボロに傷つき、体の赤が血のために濃くなった、パラス。
その体は、もはや立っているのが奇跡なほどだった。
エンジはその姿に動揺を隠せない。

「どど、どうしたんだお前!?だ、大丈夫か…どうしようムラサキさん!」
「…これはひどい傷ですね…一刻も早くポケモンセンターに連れていかないと」
「じゃあ、コイツを運んでいけばいいんだな!」
「いや…この傷を外の風にさらすのは危険かもしれない。エン、あなたがこの子をゲットしなさい」
「え、…げ、ゲット?」
「いいから早く!この子を助けたいのでしょう!?」
「う、うん!!」

エンジは急いで空のモンスターボールを取り出す。
祖父から『餞別だ』と言われもらったモンスターボール。
まさかこんなに早く使うことになるとは…と思いながら、パラスに向かってボールを投げた。
極限にまで弱っていたパラス、なんなく捕まえることに成功した。

「さあ、全速力でポケモンセンターに向かいなさい!」
「ああ!…がんばれよ、パラス…」


   ・
   ・
   ・


「きゅう〜、きゅう!!」
「さあエンジ君、もうこの子は大丈夫よ」
「あはは…やった!やった!ありがとうジョーイさん!」

数時間後、ポケモンセンターに明るい声がこだました。
パラスは傷も癒え、元気に飛び跳ねている。
ほっと胸を撫で下ろすエンジとムラサキ。
そんな二人をジョーイはキッと睨んだ。

「コラ二人とも!いくらゲットしたいからって、あそこまで弱らせることなんてないでしょう!
 …もしもこの子があと一回攻撃を受けてたら…。今、この子はこの世にいなかったはずよ」
「ま、マジ…?」

先程あと一回攻撃をしようとしたエンジは、ぶるっと身を震わせた。
もしあの時、ムラサキさんが止めてくれなかったら…
自分の無鉄砲な行動に、嫌気がさした。
うつむくエンジの頭を、ムラサキはくしゃくしゃと撫でてやる。
エンジがムラサキを見上げると、そこにはいつもの笑顔があった。

「君みたいな少年は、無鉄砲なのがちょうどいいくらいですよ」
「ムラサキさん…」
「それより。ジョーイさん、このパラスは私たちが傷つけたわけではありません」
「それならどうして…」
「そうだよ。なぁパラス、お前、一体なにがどうしたんだ!?」
「きゅう、きゅう…」

エンジ・ムラサキ・ジョーイの三人は、いっせいにパラスを見る。
パラスは困ったような顔をすると、少し間をあけ、ぱっと顔をあげた。
そしてまたピョンピョンと飛び跳ね、ポケモンセンターの自動ドアから外に出る。
パラスは三人のほうに向き直り、またピョンピョン跳んだ。

「もしかして…」
「ついて来い、って言っているようですね」
「ムラサキさん、行き先は決まったみたいだね」
「はぁ…アカネさんの手がかりになりそうなものは、一切無さそうだけど。ま、いいでしょ」
「へへ、オレたちの、旅立ちだ!…待てよ、パラス!」
「はいはい。好きにしなさい」
「二人とも、ガンバってね…」



パラスを追いかけエンジとムラサキは進む。…西へ。
そこには、高く高く、おつきみ山がそびえ立っていた。




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