夜の暗闇が消え去り、朝日が昇る。
空がうっすらと明るくなると、早起きのポケモンが目を覚まし、その声で皆に朝の訪れを伝える。
そうして今日もまた、同じように一日がはじまるのである。
■■■ 〜第一話 出会いと旅立ち〜 ■■■
「ふわあぁぁぁ…今日も良い天気じゃわい」
大きな口であくびをしながらそう言った老人は、いそいそと台所へ向かった。
しばらくすると、そこからは何やら良い匂いがただよってきた。
その匂いにつられ、外で朝ご飯を待っていたポケモンたちが、一斉に騒ぎだす。
「これこれ、もう少し待っててくれんかの」
老人は料理を終え、それをゆっくりと居間のテーブルの上に運んだ。
と、そこで、一枚の手紙を発見した。
そこには、老眼が入っていながらも、眼鏡をかける必要のないほどに大きくはっきりとした字で、こう書いてあった。
『まちに行く。朝ごはんはもってったから心ぱいムヨー!』
手紙を読み終えた老人は、ひとつ、しかし大きく深いため息をついた。
「朝から街に…ここんとこ毎日じゃな」
そして老人の目には、ふたを開けたまま中身をこぼして倒れているポケモンフーズの缶が入った。
この光景を見るのは、たしか三度目である。
前も、あいつが『朝ごはん』としてこれを持って行ったのだった。
「…ったく、これはポケモン達の食べ物だと何度言えばわかるんじゃ。エンジめ、何が『心ぱいムヨー!』なんだか…心配で心配でワシはたまらんわい」
ギャオ!ポッポー!きゅうきゅう…
「おお、スマンスマン、お前たちの朝ご飯がまだだったな」
老人は、カントー地方ハナダシティの少し南で、ポケモンの育て屋さんをやっていた。
ずっと一人で生活してきたのだが、1年前頃に、彼は自分の孫を一人預かった。
その子の親は両親とも腕のたつトレーナーで、また遠くの地方まで旅に出るために、子を祖父のもとに預けたのだった。
「俺ら鬼鳥(おにどり)家のモンは、代々トレーナーをやってきた。旅に出ないと気がすまねぇ。そういうことだ、親父、エンジを頼んだ」
「すみません、お義父さん…この子はまだ幼すぎます、連れて行くわけにはいかないのです」
「ムゥ…仕方無い、エンジはワシが面倒を見よう。だが、他の子たちはどうするつもりじゃ?ワシの孫は、全部で四人のはずじゃが」
「上の三人は、もうそれぞれ旅に出て行った。あいつらは、心配いらねぇ」
「ふむ。血は争えんな」
「お義父さん、エンジを、どうかよろしくお願いします…」
そして二人は、子を置いて旅に出てしまった。
その子の名は、鬼鳥エンジ。
両親も兄弟も、自分を置いて旅に出て行ってしまったため、彼はかなり焦っていた。
自分も早くみんなと同じように旅に出たい、と。
そんな彼は今、相棒で親友のオニスズメとともに、ハナダシティに向かっている。
祖父の家から持ち出した、『朝ごはん』を食べながら…
「ぎゃあああ!!ま、マズー!!!」
朝日まぶしい5番通りに、少年の悲鳴が響き渡った。
エンジは少し涙目になりながら、口にしたものを吐き出し、残りをオニスズメに与えた。
「ま、また間違えた…これ、ポケモンフーズじゃん!見た目はマジでうまそうなんだけどなあ」
「ぎゃぎゅう〜♪」
「めちゃめちゃうまそうに食ってるな…そんなに、おいしい?…ジュルリ」
エンジはオニスズメが美味しそうに食べてるのを見て、「オレも一口…」と思ったが、今さっきそれを食べて泣きそうになったことを思いだし頭をブンブンと横にふった。
気を取り直し、またハナダに向かって歩き出す。
その足は、ハナダシティに近付くたび、だんだんと駆け足になっていった。
飛ぶことがイマイチ苦手なオニスズメは、エンジに離されないように必死で追いかけた。
二人の視界にハナダの街が広がると…エンジは大声をあげて言った。
「今日こそあのポケモンをもらうぞ!!」
ウィィィン…
「ようこそ、ハナダポケモンセンターへ。ポケモンの回復ですか?」
「…いいえ。人を…探しています。アカネというポケモントレーナーをご存じありませんか」
「アカネさん?」
「そう、パートナーは、大きな…オニドリルです…」
ウィィィン…
「たのもー!!」
「エンジ君!?また来たの!?」
「エンジ…?」
「すみません、私には心当たりはございません。お役に立てず申し訳ありません」
「いえいえ、いいんですよ」
「コラ!エンジ君!その部屋に入っちゃダメよ!」
会話の隙に奥の部屋に忍び込もうとしていたエンジを、ジョーイはすかさず止めた。
その部屋には、エンジにとって欲しくて欲しくてたまらないポケモンたちがいるのだ。
そう、そこでボールの中で眠っていたのは、ヒトカゲとフシギダネとゼニガメ。
旅立つ少年少女が、一番最初にもらうことになるポケモンたちである。
「いーじゃんかー!オレにくれよー!一匹でいいんだ一匹で!」
「ダメなものはダメって言ってるでしょう!」
「なんでだよ!確かにオレはこの間十才になったばっかだけど…もう一人前なんだ!強いんだー!だからくれ!」
「ああもう…何よそれ…」
ただの駄々っ子となっているエンジにジョーイはため息をついた。
エンジは、最初の三体から一匹をもらえれば、今すぐにでも両親や兄弟たちのように旅に出れると考えていた。
しかしそのポケモンをもらえるのは、親と合意の上しっかりと手続きをすませたトレーナーだけ。
しかしエンジは両親とは離れており、祖父に言っても、
「旅に出るなんて許しゃんぞ!ワシはお前の母さんから、しっかりとお前の世話を頼まれてるんじゃからな」
と逆に怒鳴られてしまった。
両親と兄弟たちに取り残され、しかし旅立つ許しも得られず、エンジは歯がゆい思いでいっぱいだった。
「なーたのむよ!オレは、みんなに…追いつきたいんだ!」
エンジが叫んだそのとき…
先ほどジョーイと会話していた人物がエンジの目の前に突然現れた。
その者の風貌に、エンジは少々たじろいだ。
「なッ…!!お、おまえ、ウワサのヘンタイ!?!?」
エンジがそう言ったのにも無理はなかったのかもしれない。
男か女かもわからないその者は、真っ黒なコートをまとい、ピカチュウの耳を模したヘアバンドをつけていた。
そして、何やら怪しげな笑みを浮かべていた。
そしてこれまた怪しげにフフフ、と笑い、エンジに話しかけてきた。
「エンジ君とやら。私とポケモン勝負をしましょう」
意外なこの一言に、エンジは驚くよりも恐怖を感じて、二、三歩後ずさりをしてしまう。
なんで自分がこの男(女?)と勝負をしなければならないのか、エンジには全く見当がつかなかった。
「フフ、そんなに怖がらないでくださいよ。」
「な…!怖がってなんていない…ぞ!ってか、なんでオレがお前とバトルしなきゃいけないんだ」
「クス…」
またもや不敵な笑みを浮かべると、その者はひとつのモンスターボールを取り出し、宙に浮かせた。
そして、そのボールから一匹のポケモンが飛び出した。
「ゼニゼニ〜!!」
「ぜ、ぜ、ゼニガメェェ!!!!!」
恋焦がれるそのポケモンの登場に、エンジは瞳を輝かせた。
ほしい。ゼニガメがほしい!
そんなエンジを見てその者はさらににっこりと笑い、ゼニガメをひょいと拾い上げ
、そして言った。
「私とバトルをして、もしも君が勝ったら…このゼニガメは差し上げましょう」
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