嵐の日の記憶...3話 

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波のせいで舟から落とされたのか、自分から飛び込んだのか、今ではもうわからない。
激しい波に流され、息もできず、だんだん意識が遠くなっていった。
無力な俺は、このまま海の底に沈むのだろう。
ほら、やっぱり俺は、命をかけてもらえるようなヤツじゃなかったんだよ。
悪かったな、カイ…

兄貴…兄貴…


<ソウ。自分の夢に、誇りを持って生きろよ。>

…そうだ。あいつは俺に、『生きろ』と言ったんだ。
俺を生かすために、あいつは。
俺が、それに応えないでどうする!?
俺のために命を落とした兄に、応えないでどうする!?

俺には、何の力も無い。
だけど、俺は、あいつの弟だ。
血をわけた、兄弟だ。
俺が生きることが、あいつが生きていた証…!!


必死に、海の中で、もがいた。
どちらに泳げばいいのかもわからなかったが、とにかくもがいた。
ここで、死ぬわけにはいかない…


息も限界、体力も限界、冷たい海水に体温も奪われ、意識が、消えそうになったそのときだった。

何かが、俺を乗せて、泳ぎ、海面まで上がっていく。
俺は頭が真っ白で、何が起きているのかさっぱりわからない。
ただ…俺は何かの背中に、乗っているようだった。
そのまま海から出て目にした光景は、まるで自分が夢を見ていたかのようで。
空を暗く覆っていた雲が消えていき、小雨に変わり、波も落ち着きを取り戻していった。
夢なのか現実なのか、それははっきりしないまま、体力が限界に来ていた俺は、何者かの背中の上で深い眠りについた…


次に見た光景は、自分の部屋の中だった。

両親は俺の顔を見るなり、大声をあげて泣き出した。
どうやら3日3晩、俺は眠り続けていたらしい。
話を聞くと、街の人みんなで海で必死にカイの捜索をしてはいたが、何も成果は上がらなかったようだ。

なあ母さん。兄貴は、俺のために、海に飛び出したんだ…

そう言っても、誰も俺を責めたりはしなかった。
ただ、助かって良かったと。
お兄さんは勇敢だったと。
クスノキ艦長さえも、俺を責めはしなかった。

「艦長!俺が悪いんだ!俺になんの力も無かったから…くそお!俺を、俺を責めろよ!」
「君を責めて、一体何になるんだい?君自信が一番、己の無力さを恥じ、責めている」

「…」

「それならば、もう後悔しないように、力をつけなさい。
君は生かされた。君のお兄さんと、あの光るドラゴンに…」


そう、光るドラゴン。
あの日、俺を助けたのは、ドラゴンだったらしい。
多くの街の人が目撃してはいたが、それの放つ光のせいか、姿を聞いてもその証言はまちまちだった。
青かったという奴もいれば、緑の皮膚だったという奴もいる。
すべてが黄金色だった!と述べた者もいた。
しかしみなこれだけは共通していた、あれは龍、ドラゴンだったと。

「あの嵐の日…僕等は君達が海に出ていたことを知って、なんとか助けようとしたんだ。
街の皆が、あらゆるポケモンで海を渡ろうとした。
水ポケモン、鳥ポケモン…だが、あの嵐を越えて行ける者は誰ひとりとしていなかった。」
「そうだったんだ…」
「それなのに、あの龍だけは、どこからともなく現れて、嵐をもろともせず、海を越え、君を助けた。
そして、また、空に戻っていった…」

「自然の猛威に決して負けない、ドラゴンポケモンか…!!」

そのとき、俺は自分のするべきことがわかったんだ。
自分の無力さのせいで、大切な人を失った。
もう、こんなことが起きないように。
たとえ起きても、大切な人を守れるように。
俺は、あの嵐にも負けやしないドラゴンポケモンで頂上を目指すんだ。

強くなりたい。

兄貴、誇りを持てる夢、出来たみたいだ。
だから俺は旅に出るよ。
兄貴が俺に命をかけたことが、無駄じゃ無かったと、証明してみせるよ…



「そんなことが、あったんだ…」
「ほんとに長くなっちゃって、悪かったな。…つまんなかっただろ」
「ううん!ソウ、すごく辛そうだったけど、最後まで話してくれて、ありがとう。嬉しかったよ」
「…嬉しい?」
「ソウ、あんまり自分のこと話さないじゃない。ソウのこと、今までより理解できて、嬉しい」

まさか感謝されるなんて思わなかった。
感謝するのは、むしろ俺のほうなのに。
コイツは、俺の話しを、涙を流しながら聞いてくれた。
兄貴のために、泣いてくれた。
ユキナ…ありがとう。

「…?それ、もしかして…」

俺はかばんの中からあるものを取り出した。

「これが、あの日のスケッチブック。
俺はあの時、とっさにコレをバッグにしまってたみたいで、今もこうして残ってる」

ユキナにそれを手渡す。
旅の間、ずっとかばんの中にしまってた。
兄貴の形見。
こうして取り出したのは、いつぶりだろうか。

「見てもいいの…?」

俺は黙って頷いた。
ユキナが表紙をめくる。
あの嵐で一度ぐっしょり濡れたため、しわしわの表紙だった。
あの日の絵も、すっかり雨に濡れて、線が滲んでいた。
が、水彩絵の具ではなく鉛筆一本で描いてあったためか、それがどんな絵であったか今でも見ることができた。

「!これって…
子供の頃のソウと、…なんだろ、見たことがあるような…龍…?」
「そうだ。その絵は、俺と、龍。しかも、ただのドラゴンじゃない。

 それは……天空の覇者…」

「レックウザ!?」

「それを見た時、俺は心底驚いたよ。なんで兄貴がそんな絵を描いたか、全然わからない」
「ねぇ、ソウを助けたドラゴンって、もしかして…!?」
「もしかして…俺もそう思ったよ。あれは、レックウザだったかもしれない…
馬鹿みたいだけど、そう考えちゃうよな。…偶然とは、思えない…
あの日のことは、何がなんだかわからないままなんだ。
だから、俺は、レックウザっていうポケモンをこの目で見てみたい。
いるかいないかも不確かなヤツだけど、見てみたい。会ってみたいんだ。
俺の、もうひとつの夢だ。」

別に聞かれてもいないのに、何でこんなに俺はベラベラ喋ってるんだろう。
嵐の日は、なんだか俺は不安定だ。
それとも、ただ、コイツに聞いてほしかっただけかもしれないな。
コイツも、誇り高い、夢を持っているから。

「ね!ソウ!思いついちゃったんだけど!」

そう言ってユキナはスケッチブックのページをめくる。
もちろん、一枚目以降は、何も描かれてはいない。
あの日の傷跡のように、しわしわではあったが。

「描きなよ、続き!このスケッチブックに、今度はソウが絵を描くの!
ソウがこれから見ていくものを。お兄さんに見せたいものを!」

俺はまた驚いた。そんなこと言われたのは初めてだから。
親も、それは大切にしなさい、としか言わなかったぞ!?
俺が…兄貴の、続きを描く、か…
確かに、「過去のもの」にこだわってても、仕方ないかもしれないな。

「…ごめん。ちょっと無神経だったかな…」
「いや。やってみようかな。兄貴の絵には全然かなわないけどな」

そう言うと、ユキナは笑った。
ふと外を見ると、雨は止み、空が明るかった。

「お兄さん…きっとどこかで元気に暮らしてると思うよ」

空には虹がかかってた。
嵐はいずれ止むこと。雨のあとには虹ができること。
長い間、忘れていたかもしれないな。
兄貴に守ってもらった命、夢のために、精一杯に生きるつもりだ。


俺は鉛筆を一本握って、しわくちゃの白い紙に、目の前の少女をえがきはじめた。


山崎ススム様より挿絵




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あとがきと補足
あんまりポケモンらしくない話で申し訳ないです。
ソウの過去と、夢を、理解してもらえたら幸いですv
というわけでソウ少年は絵描きのスキルを獲得しました(笑)ユキナリの影響か、男の子が絵を描くのって萌えるんです(笑)
ソウがユキナの頭ぽんぽん叩くのはおそらく兄貴の影響ですね。

あと、補足というか説明しきれなっかったこととか。
・兄貴は死んだかどうかはわかりません。カイナの海に死体あがんなかったんだから、わかりませんよね。さぁどうなんでしょう?
・ソウが海に落ちたとき、ゴーリキーも波にのまれて海に落ちてしまいました。その後どうなったかはわかりません。
・ソウを助けたドラゴンはレックウザなのか?これもわかりません。ただ、ソウとドラゴンが海から出たとき、嵐が止んで天気がよくなりましたよね。
レックウザのとくせいに、何かそんなのがあったような?ただの偶然かもしれませんけどね。
・ソウとカイはクスノキ艦長になついてました。ちなみにいつもボロ船を盗み出していたのもクスノキ艦長は知っていました。
その分、艦長もカイに対して責任感じているようです。だからソウには強く生きてほしい、と願っています。

・ちなみにソウは別に絵が上手いわけではないと思います(笑)

最後に、オリトレのカイをソウの兄貴にしてくださり、素敵な絵まで描いてくれた山崎ススムさんにこの場を借りてお礼申し上げます。
ほんとうにありがとうございました!!

次になんの話を書くか予定は決まっておりません。
読んでくださってありがとうございました。



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